一般事務の私がライター業を始めた理由

私は今の仕事があまり好きではありません。一般企業の一般事務、というごくごく普通の仕事は、可もなく不可もなしといった具合で、日々単調な時間を過ごしています。唯一良かったと思うのは、残業があまりないこと、そして業務がそこまで忙しくないという点でしょうか。それでも忙しくなく業務量も多くないという現実は、会社がそこまで儲かっていないということの裏返しでもあり、このままではいつか潰れてしまうのではないかという不安も持ち合わせています。

それでも会社を辞めたりせず、今も毎日通っているのは、お金が欲しいからです。とはいえ先に言っておきますが大した給料はもらっていません。事務としての一般的な相場から大きく外れることはありませんし、会社の業績もさほど伸びているわけでもないので、夏冬のボーナスもたとえ出たとしても年間で1か月分あれば良い方です。

しかし普通の社会人でしかない私にとって、会社に居続ければ月々の給与が保証されている環境は有難いですし、何より私にはそれらの大事な使い道があります。それはずばり“趣味”です。私の趣味はライブやイベントに参加することで、もうかなり長いこと応援しているアーティストの方がいます。その人のことを生きがい、と言ってしまうと相手にとって負担になりかねないので敢えて言いませんが、年に何度が行われるライブなどに参加は大いに楽しみな存在であり、その際の費用や休日を難なく捻出できる環境を作っておく必要があるために今の仕事を続けているといっても過言ではありません。

ただ、最近はふと思うこともあります。応援するアーティストご本人はもちろん、そのイベントに関わるスタッフの方々、主催や後援の企業に属する方々が、実にイキイキと働いている姿を見ていると、どうしても自分が惨めに思えてしまうということです。もちろん、アーティストご本人とは住む世界が違うと思っているので比較になりませんが、スタッフや関連企業の方々だって何の苦労もなくその場にいるわけでもないでしょう。しかしそれでも、多少の辛さや大変さもカバーできるほどの自分の生き方を見つけられていると思うと、それはとてつもなく羨ましく、恵まれた環境に身を置けているのだなと感じてしまうのです。私もそんな風に、イキイキと働きたいと思うものの、スキルも経験も、センスだってない自分は、結局客席からただ彼らを観ていることしかできませんでした。それでももちろん彼らは“ありがとう”と言ってくれるし、ライブに来てくれるお客さんがいるから開催できていると言ってくれます。けれどその言葉と、自分との間にある距離はとてつもなく遠くて、こちらからは何も届けることができない。そんな現実が、ひどく悲しく、虚しく感じられてしまったのです。

そんな思考にハマってしまった私は、一時期イベントへの参加を控えていました。どんな内容であっても、純粋に楽しめなくなってしまったからです。原因は全て私にあり、彼ら、特にアーティスト本人は何も悪くありません。にも拘わらず、私が使うはずだったお金は手元に残り、彼らの売上は減っていく。もちろんその額は全体から見れば微々たるものですが、自分の中の罪悪感は残り続けました。

けれど、あまりくよくよしたところで何も始まらないと思い、一念発起した私は30代前半にして初めての転職活動を始めました。目指すのはこれまた事務系の仕事ではありますが、これまでの経験を買って頂き、今より年収を上げることと幅広い業務を担当してスキルアップを図れることが自分の中での最低条件です。その他会社の業績が好調であることなど、色々と希望する条件はありますが、いずれどこかで折り合いをつけて転職先を決め、新たな一歩を踏み出したいと考えています。

そして、もともと文章を書くことが好きで、自分の気持ちや考えたことを形にすることでお金が稼げるならと、フリーランスのライターにチャレンジしてみてもいいのではと思い、始めることにしました。初めは特に仕事もないので、タスク形式の原稿作成やちょっとした体験談を記事にしてみたりと、月に数千円ほど稼げれば御の字といった具合でしたが、ライターとして活動し始めてから3年が経った今では、毎月継続してご依頼くださるクライアント様も増え、ネット媒体に記事が掲載されることもあったりと、しっかりと自分らしい生き方を感じられる仕事にすることができています。空いた時間に作業できるというスタイルも自分に合っていたと思うので、あのとき思い切ってチャレンジしてみて良かったと感じています。

それでも今もなお、私は大好きなアーティストやその周囲の方々に追いつけているとは思っていません。今もイベントに参加し、そして彼を見るたび、その姿に憧れを抱くばかりだからです。しかしそれでも、もう立ち止まったままの自分ではありません。スタートは切りました。あとはどう走っていくかだけだと思っています。

せめてファンとして、恥ることのない走り方を続けていきたいものです。

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yoshinaka

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